「デジタル給与」が2023年4月スタート。本当に安全なのか?

2023.02.01

デジタルマネーによる給与の支払いが、2023年4月から本格的にスタートします。安全面の不安を解消するために、どのようなルールが設定されたのでしょうか?

デジタルマネーによる給与支払いが2023年4月から解禁

厚生労働省は10月26日に労働政策審議会労働条件分科会で、電子マネーによる給与の支払い、いわゆる「給与デジタル払い」(資金移動業者の口座への賃金支払、デジタル給与)の制度導入を了承しました。労働基準法の施行規則に、デジタル給与を可能にする内容が盛り込まれることになります。

この給与デジタル払いは、銀行口座ではなく、「資金移動業者」が管理する本人のアカウントにデジタルマネーで給与を振り込む仕組みです。ここでいう資金移動業者とは、銀行口座などを介さずに送金サービスができる登録事業者のことで、要は「〇〇ペイ」「○○払い」と呼ばれるスマホ決済サービスを提供している事業者のことです。

新たな労働基準法は、2023年4月に施行することが決定しました。つまり、2023年4月からは、企業が従業員の給与をデジタルマネーで支払えるようになることになります。

現法における給与の支払い方法は、労働基準法第24条で「通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない」と定められています。現法では基本的には「通貨払い」、つまり現金で支払うことが原則となっていますが、本人の同意があれば、例外的に銀行・証券総合口座への振り込みを行うことが認められています。

そして2023年4月からは、従業員は銀行口座だけでなく、デジタルマネーでの給与支払いも選択できることになります。

給与デジタル払いは便利なのか?不安なのか?

給与を銀行口座ではなくデジタル払いに変更することで、いくつかのメリットが考えられます。まず給与を振り込む企業の立場では、給与の振込手数料が安く抑えられます。給与を受け取る従業員側の立場でも、支払いの度に銀行やATMで現金を引き出したり、銀行口座からキャッシュレス決済口座へチャージすることもなく、給与をそのままキャッシュレス支払いに利用できるというメリットがあります。

一方で、デメリットもあります。たとえば、Aというキャッシュレス決済サービスで給与を受け取った場合、給与をBというキャッシュレス決済サービスを用いて買い物をすることはできません。

また安全面での懸念点としては、もしキャッシュレス決済Aを営む資金移動事業者がそのサービスを停止した場合、Aで貯めていた給与が失われてしまう可能性があります。

加えて、スマートフォンを紛失した場合、それを拾った第三者に悪用されてしまうかもしれません。銀行の場合、盗難されたキャッシュカードによって不正に預金が引き出された場合、金融機関がその被害額を補償する法律が存在します(預貯金者保護法)。しかし、資金移動業者の場合、補償内容は個々の事業者で決めてられているため、法律による共通の補償規定はありません。

さらにいえば、銀行は他の事業のリスクが銀行業に波及することがないよう「他業禁止の原則」が設定されています。一方で資金移動事業にはその原則は無いため、キャッシュレス決済事業が、他事業の失敗のあおりを受け、最悪の場合はサービスが終了する事態に陥る恐れもあります。

このように給与デジタル払いにはさまざまな懸念点がありますが、同制度のスタートに当たり、懸念点を解消するためのルールが定められています。

給与デジタル払いを会社に強いられることは無い

給与デジタル払いは、給与を受け取る従業員側が不利にならないよう、企業に対しいくつかの条件が設けられています。

1つ目は、本人の同意が必要になる点です。企業が給与デジタル払いを行うためには、従業員本人から同意を得ることと、事前に労働者の過半数で組織された労働組合(過半数労働組合)、もしくは過半数代表者と、労使協定を締結することが求められます。つまり、企業側会社に強いられることはありません。

さらに、企業側が給与デジタル払いを行う際には、銀行口座払いと現金払いの選択肢も用意する必要があります。たとえば、「給与は現金払い、給与デジタル払いの2通りから支払う」という会社はルール違反となります。給与デジタル払いに加え、銀行口座払いと現金払いの合計3つの選択肢が用意される必要があります。

給与デジタル払いに利用できるキャッシュレス決済にも制限があり、「1円単位で現金化が可能なサービスであること」「月1回は手数料なしでATMにて現金化できるサービス」のみとなります。さらに、キャッシュレス決済の運営事業者が破綻したとしても、破綻から「4~6営業日以内」に全額払い出しが保証されることもルール化されました。

このほか、口座残高の上限額は「100万円」となり、100万円を超える超過分は銀行口座への振込となります。給与の一部入金、仮想通貨の入金については、今回の省令では認められていません。

このように、給与デジタル払いは懸念されていたデメリットに配慮した形でスタートすることになりますが、現時点では、家賃や各種公共料金など、キャッシュレス決済に対応していない支払いも多く存在します。2023年4月のスタート時点では、すぐに給与デジタル支払いを希望する従業員はあまり多くないかもしれません。

今後、よりキャッシュレス決済の安全性が認識され、さまざまな支払いがキャッシュレスに移行していくことで、デジタル給与払いを希望する従業員は増えていくことでしょう。

※本記事は2022年11月時点の情報を元に作成されています。

関連する商品

dX勤怠・労務管理

dX勤怠・労務管理

勤怠・給与・労務・経費・社員情報をまるごと一元管理。人事/労務領域の業務効率化と共に、労基法への対応も支援。

関連記事

2021.12.01

複雑化する飲食・小売業界の勤怠管理。しっかり把握できていますか?

働き方改革の推進やコロナ禍によるワークスタイルの変化に応じて、勤怠管理も見直す必要があります。アルバイトやパートといった雇用形態が多様な飲食・小売業界を例に、「dX勤怠・労務管理」を使い、勤怠管理をデジタル化する方法を紹介します。

2021.12.01

月10万円を超えた外注費を月1,500円に抑える労務管理ツールがある

テレワークに代表される働き方の多様化は、企業や従業員にさまざまなメリットをもたらす一方で、勤怠管理を煩雑化させるという一面もあります。出社やオフィスでの勤務が、当たり前ではなくなりつつある現在、どのように勤怠管理を行えばよいのでしょうか。

記事一覧に戻る